辻村深月作『きのうの影踏み』感想 読者モニターって知ってます?出版社が発売前の新刊を、感想を送ることを条件にタダで(タダで!!!)希望した読者にパイロット版やゲラを送付してくれるって企画なんですよ。ゲームでいうと、クローズドβ版に参加しました、ってところ。 実はこの夏、二つの読者モニターに参加してまして、なんと、両方とも当選したってわけです。感想はもちろん出版社の方へと送ってあるのだが、発売前の新刊をブログで感想を綴ってしまうのは、どうかなあと思ったり、「本冊子から知り得た情報を、本来の目的を離れ、インターネット等の媒体に掲載することのないようお願い申し上げます」という注意書きの「本来の目的」がどの範囲までを許容するしているのかが分からなかったので、今まで書かずに...2015.09.29 17:41ホラー読書
ケン・リュウ作『紙の動物園』(古沢嘉道編・訳)感想 又吉直樹フィーバーがすさまじい。この本の売れない時代に文芸春秋の(あの文芸春秋の!)本が売れすぎで書店にない、みたいなことはこの先、あるだろうか。もちろん、『火花』のことである。異常であることは間違いない。 そんな又吉直樹さんがテレビ番組「アッコにおまかせ!」でアッコさんにおすすめの本を聞かれて答えた本が、ケン・リュウ作『紙の動物園』である。以下、紹介文引用。ぼくの母さんは中国人だった。母さんがクリスマス・ギフトの包装紙をつかって作ってくれる折り紙の虎や水牛は、みな命を吹きこまれて生き生きと動いていた……。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝いた表題作ほか、地球へと小惑星が迫り来る日々を宇宙船の日本人...2015.09.26 15:30外国文学読書SF
吉上亮作「未明の晩餐」(早川書房編集部編『伊藤計劃トリビュート』より)感想 こんな日は外に出かけて、書店により、うちに戻って、本の中に引きこもるのが良い。いろんなことを上書きしてくれる。そんなわけで、早川書房編集部編『伊藤計劃トリビュート』4作目、吉上亮作『未明の晩餐』まで到達した。ちなみに、3作目柴田勝家作『南十字星(クルス・デル・スール)』と8作目、長谷敏司作『怠惰の大罪』はそれぞれ、長篇の冒頭部分の掲載ということで、感想を書くことは省こうと思う。全部読んでから、抱いた感想をしっかりと書きたいという判断。 では、『未明の晩餐』の書き出しから。 予想外に仕事が長引いたせいで、勤務先の列車を降りたときには、日の出が近い四時二三分になっていた。いつもより随分と遅い。 東京駅二八番線の地下ホームに大型キャリー...2015.09.23 09:42読書SF
森博嗣作『スカル・ブレーカ The Skull Breaker』感想 天然ジゴロ、という言葉を知ったのは漫画『ハヤテのごとく!』だったろうか。主人公の綾崎ハヤテが意図せず周囲の女の子をおとしていく様を、登場人物が「天然ジゴロ」と称していたわけだけど、中一純情ボーイだった僕は意味が分からなかった。ちなみに、『ハヤテのごとく!』公式ホームぺージを見ていたら、三千院家のメイド、マリアが17歳である、という記述をみつけて、泡吹いてぶっ倒れている。 というわけで、かなり強力な天然ジゴロが登場する『スカルブレーカ The Skull Breaker』(以下『スカル・ブレーカ』)です。以下、あらすじ引用。生きるとは負け続けること、死ぬとはもう負けぬこと――侍同士の真剣勝負に出くわし、誤解から城に連行されたゼン。彼...2015.09.21 12:05エンタメ青春読書
伏見完作「仮想(おもかげ)の在処」(早川書房編集部編『伊藤計劃トリビュート』より)感想 『伊藤計劃トリビュート』より、二作目。作者の伏見完(ふしみたもつ)さんは長野県出身らしい。しかもいっこ上。そんな人が本の向こうにいるってのは、なんだか不思議な気持ちである。(20代男性)ってのになってしまったのだなあと感じられ。 そんな感じで書き出し引用。 姉と最後にこうして向かい合ったのは、どれくらい昔のことだろう。ついこのあいだのような気もするし、何十年も前だった気もする。 「久しぶりだね、有香」 「お姉ちゃんこそ」 けれど本当は生まれてから今まで、正確な意味で姉と向かい合ったことなど一度もないのかもしれない。ただ巧妙な計算と良質なフィードバックがわたしをそのように錯覚させていただけで。 双子の姉妹のうち、妹の有香が主人公。姉...2015.09.19 10:46読書SF
寮祭 感想 酒をしこたま飲んだ翌日は、なぜだか早起きしてしまう。3時間くらいでおめめパッチリ。ぼやっとしているうちにいろいろなものが湧き上がってきたので、徒然なるままに。 昨日(9月13日)、僕の生活している寮にて、「寮祭」なるものが催された。一体、「寮祭」とは何なのか。ざっくり言ってしまうと「内輪の酒の肴」だろうか。寮祭は運動祭と演芸祭に分かれており、1年から4年の4つの縦割り班がそれらの祭の順位を競い、優勝を決定する行事である。運動祭では、綱取り、ドッヂボール、騎馬戦、そしてラストリレーの4種目で競い合う。演芸祭では、各班(寮内では「グルッペ」なんて呼ばれている)が15分から20分の間で寸劇を作り、それの出来で競う。順位は投票で決定される...2015.09.15 06:10雑感
カズオ・イシグロ作『わたしを離さないで』(土屋政雄訳)感想 思い出とは、常に美化されるものである。現在、僕の暮らしている寮では「寮祭」なる祭が催されているわけだが、まあ、この祭がまったくもって意味不明で、他人に説明のしようがない祭だ。過度のストレスを抱えること必至であり、しかし、その大変さは経験しないとまったく伝わらない。ちなみに、僕は一年生のころ6kg体重が減り、二年生のころは牛丼一口でおなか一杯になるほど胃が縮んでいた。そんな僕が四年生として、下の代の胃を縮めるほどストレスをかけてしまっているのは、やはり、そんな経験の中でもよかったこと、楽しかったことが強調され美化され思い出となっているからではなかろうか。 老害と言われる所以である。 このような構図が気持ち悪いとは思うが、そう簡単に変...2015.09.08 02:56外国文学読書SF