辻村深月作『きのうの影踏み』感想

 読者モニターって知ってます?出版社が発売前の新刊を、感想を送ることを条件にタダで(タダで!!!)希望した読者にパイロット版やゲラを送付してくれるって企画なんですよ。ゲームでいうと、クローズドβ版に参加しました、ってところ。


 実はこの夏、二つの読者モニターに参加してまして、なんと、両方とも当選したってわけです。感想はもちろん出版社の方へと送ってあるのだが、発売前の新刊をブログで感想を綴ってしまうのは、どうかなあと思ったり、「本冊子から知り得た情報を、本来の目的を離れ、インターネット等の媒体に掲載することのないようお願い申し上げます」という注意書きの「本来の目的」がどの範囲までを許容するしているのかが分からなかったので、今まで書かずにいた。問い合わせするのも緊張するし。


 というわけで、9月26日に発売された辻村深月作『きのうの影踏み』の感想です。もう一つの方はまた後日。発売されてから。以下内容紹介引用。


どうか女の子の霊が現れますように。おばさんとその子が、会えますように。交通事故で亡くした子を待ちわびる母の願いは祈りになった――。辻村深月が”怖くて好きなものを全部入れて書いた”という本格怪談集。


 内容紹介で紹介されている作品は「七つのカップ」という作品なので、「七つのカップ」の冒頭を引用。


 そのおばさんは、いつも、私たちの通学路に立っていた。
 私たちは、小学校五年生だった。学校に行く時や帰り道、その横断歩道に、おばさんが立っているのとよくすれ違った。普段から大人に、地域の人には元気よく挨拶をしましょう、と言われていたから、「こんにちは」とか、「さようなら」と、私たちはよく挨拶した。


 辻村さんの辻は綾辻行人氏からとったと公言されているほど、綾辻行人作品が好きな辻村深月さん。綾辻さんはミステリー作家だけれども、ホラーも書いているので、辻村さんが書いてても違和感はなかった。そもそも、『ふちなしのかがみ』で辻村ホラーを読んでいたので、世間が言うほど、驚かなかったというか。


 『ふちなしのかがみ』収録の「踊り場の花子」って作品はフジテレビの「世にも奇妙な物語」でも取り上げられた。チュートリアルの徳井が演じてた、、、と言えばわかる人も少しはいるんじゃないだろうか。


 「世にも奇妙な物語」に取り上げられる、ということは(ということは、はおかしいけれども)、辻村ホラーは背筋ゾクゾク系である。なんか怖い幽霊が具現化するわけでもなし、スプラッタみたいにぐっちょぐちょになるわけでもなし。日常に潜んでいそうな、もしかしたら本当にありそうな、そんな怖さ。目をそらしてるだけなんじゃない?みたいなことを問いかけられている、そんな気がする。


 『きのうの影踏み』は『ふちなしのかがみ』と比べて、一作一作の文章量もかなり少ない。また、『ふちなしのかがみ』よりもホラー要素は少なめかと。かわりに、ホラー的要素を用いて、辻村さんの得意とする人間関係の機微やゆれみたいなものが全面に押し出されていると思う。だからこそ、出版社の惹句が「大切な人との絆を感じる傑作短篇集!」なんだろう。


 さっきも書いたけれど、僕たちは認識していないだけで、この世の中は不思議なことに満ちているのかもしれない。何かの拍子でそれらが認識できるようになるかも。日常が非日常に裏返るなんて、普通にある。かもしれない。


 先日、神田神保町の古本屋街を散歩がてら、ひとつひとつのお店に入って、じっくりと本に向き合ってみた。古本屋に入った瞬間のあの、音がすべて遠のく体験。次に薫る本特有のにおい。車が多く飛び交う大通りに面していて、しかも、ドアは開いているのに、喧騒がすべてシャットダウンするあの感覚は、とても不思議だ。そういった意味で、あの空間は異空間なんだろう。


 そんな異空間を構築している本が異世界の扉はすぐそばにあるよ、なんて語りかけてくるもんだから、説得力が満載である(日本語がおかしい気がする)。


 目を覆いたくなるようなホラーではなく、続きが気になってしょうがない、この話の主人公はこの後、どうなったんだろうと思わせるホラー。そんな余韻がとても癖になるホラー短篇集でした。


 夏はもうとっくに過ぎましたが、月の明るい秋の幻想的な夜に読むゾクゾクするホラーも、おつではありませんか?

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