小川一水作『天冥の標Ⅱ 救世群』感想 小川一水がやりたいこと全て詰め込んだ作品の第二弾。 すべてのはじまり。ネタバレがあります。西暦201X年、謎の疫病発生との報に、国立感染症研究所の児玉圭伍と矢来華奈子は、ミクロネシアの島国パラオへと向かう。そこで二人が目にしたのは、肌が赤く爛れ、目の周りに黒斑をもつリゾート客たちの無残な姿だった。圭伍らの懸命な治療にもかかわらず次々に息絶えていく罹患者たち。感染源も不明なまま、事態は世界的なパンデミックへと拡大、人類の運命を大きく変えていく――すべての発端を描くシリーズ第2巻。 煙霧の霊(ガイマー)がどう思っているのか、気になった。 なぜなら今、ニハイの村には、煙霧の霊とジョプの二人しかいないからだ。 煙霧の霊は万物を覆う精霊だ。...2016.05.23 05:23読書SF
滝口悠生作「死んでいない者」感想、そして読書するということ 平成27年下半期芥川賞受賞作品のもう一つの方、滝口悠生の「死んでいない者」の感想を綴ろうと思ふ。秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。子ども、孫、ひ孫たち30人あまり。一人ひとりが死に思いをめぐらせ、互いを思い、家族の記憶が広がってゆく。生の断片が重なり合って永遠の時間がたちがある奇跡の一夜。第154回芥川賞受賞作。 こちらはかきだしになりまふ。 押し寄せてきては引き、また押し寄せてくるそれぞれの悲しみも、一日繰り返されていくうち、どれも徐々に小さく、静まっていき、斎場で通夜の準備が進む頃には、その人を故人と呼び、また他人からその人が故人と呼ばれることに、誰も彼も慣れていた。 なんだか、文学賞を「あてにならない」...2016.05.16 14:28雑感純文学読書
乙一ら編『幻夢コレクション メアリー・スーを殺して』感想 この本ほど、異色なアンソロジーはないだろう。何しろ、全て同一人物なのだから!!! 乙一、中田永一、山白朝子、越前魔太郎の作品、そして安達寛高の解説が付いた、全て同じ人物による、幾つもの名義を使いこなす著者の贅沢な短篇集なのだ! 以下、惹句と表題作の書き出しだよん。「もうわすれたの? きみが私を殺したんじゃないか」(「メアリー・スーを殺して」より)合わせて全七編の夢幻の世界を、安達寛高氏が全作解説。書下ろしを含む、すべて単行本未収録作品。夢の異空間へと誘う、異色アンソロジー。 メアリー・スーを殺すに至った動機と、その後の数年間について書こうと思う。 私という人間は、好きな作品ができると、どこまでも没入してしまう癖があった。作品のジャ...2016.05.15 14:52エンタメ青春ミステリ読書
宮内悠介作『彼女がエスパーだったころ』感想 宮内氏の新作が立て続けに出版されて僕はとてもうれしい。欲を言うなら、サインが欲しいです。とーきょーいきてー。 以下、惹句と表題作の冒頭引用ですー。進化を、科学を、未来を――人間を疑え!百匹目の猿、エスパー、オーギトミー、代替医療……人類の叡智=科学では捉えきれない「超常現象」を通して、人間は「再発見」された――。デビューから二作連続で直木賞候補に挙がった新進気鋭作家の、SFの枠を超えたエンターテイメント短編集。 超能力を現代的にアップデートした人物は誰かと問われれば、いまや、多くが及川千晴の名を挙げるのではないだろうか。ところが彼女の来しかたとなると、これまた多くが首を傾げることになる。何しろインタビューその他においては、いちいち...2016.05.09 15:05読書SF