石黒正数作『外天楼』感想

 これも借り物。おススメを読みまくる日々。あ、新成人はおめでとうございます。一年が過ぎる速さに気を付けるんだぞ。


 以下惹句引用。


増改築を繰り返し迷路と化した集合住宅の一室で発見された不可解な死体(「面倒な館」)。人工生命学の科学者が刺殺された現場に残された血文字(「フェアリー殺人事件」)。新任の女刑事が過激でマニアックな推理を繰りひろげるせいで、世界は混乱していくばかり!?奇妙にねじれた笑いと感動に不意打ちされる傑作!!


 ちょっとネタバレあると思います、注意。伏線の回収が快感を呼ぶタイプの作品なので、読むつもりがあって、未読の場合は感想をあまりじっくり読まない方がよいと思います。問題ないように気を使ってはいますが、一応。無理でした。


 全九話構成の漫画である。何しろ構成が見事。第一話で3人の男子中学生がエロカーストの最底辺にいることが示される(?)のだけれど、その3人がまさにエロを駆動力にしてのしあがっていく(?)様はなにか倒錯したものを感じる。そしてそのエロの頂点が主人公アリオの姉、キリエ。その3人だけではなく、父親までもキリエに陶酔しているのだから、キリエさん、恐るべし。まあ、その後ろには恐ろしい事実が隠れているのだが、、、 エロカーストの最下級にいるとアリオたち3人の男子中学生に宣言するのがキリエであるのも、かなり示唆的。


 そもそもが、ギャグタッチなのだ。ゲラゲラ笑いながら読み進めていくと急転直下、真顔にならざるを得ない展開に、、、、みたいのが多く。この笑いをどこに持って行けばいいのだ!となること多数。始めだって、SFっぽいやつだよ!って言われていて、読み始めたらどうやったら怪しまれずにエロ本を書店で買うことができるかを大真面目に考えて実行する男子中学生を見せられて、笑わないはずがない。借りた本ギャグマンガだったけな?と第2話までは思っていましたが、ぼくが浅はかでした。サーセンッ!!


 ロボットや人工生命体・フェアリーなどが実用化されている世界が舞台。人間そっくりのロボットたち、命を持つフェアリーなどが普通になりすぎているせいで、一般人にはロボットと人間の区別もつかないし、愛玩として開発されたフェアリーにも権利があると主張し始める団体が出現するなど、普通にありそう。そして、ロボットやフェアリーを規制し権利を守ろうとするのが女性のみ、規制などもってのほかだと主張し続けるのが男性のみというのにも寓意が含まれている(だろうなあ)。ここらへん、あまり踏み込んでしまうと、予想以上に敵を作ってしまうような気がするので、これ以上は言及しません。なんでかって、人間そっくりのロボットはすべて女性であり、男性型は見た目ではなく機能重視。フェアリーもまさしく「妖精」のように小さい女性の人間を模しているのである。読み手が男性か女性かで『外天楼』の受け取り方はかなり違うように思える。


 その女性ばかりがクオリティの高いロボットやフェアリーが生まれた経緯をたどるとすべてアリオの姉、キリエにたどり着く。馬鹿な男どもが構成するエロカーストの頂点に君臨するのは、キリエだ。その美しく、可憐で、かわいいキリエが最終話の最後の場面、まるでモンスターのような相貌を読者に晒し、『外天楼』は幕を引く。読者の持つ価値観や作中で明かされる事実の反転や倒錯を繰り返しによって、「外天楼」(増改築を繰り返し迷路と化した集合住宅)の中をはじめからさまよっていたかのような錯覚に陥らせるこの『外天楼』は、間違いなく傑作であると言えよう。

以下、ブックメーターに投稿した感想です。      
その可憐さ、美しさ、かわいさから全ての中心にいた、全てに影響を及ぼしていた存在であるキリエの、化け物のような醜い相貌を読者に晒しての幕引きは、なんだかすべてが無に帰するような感触が得られ、非常にゾクッとした。人間を駆動する欲望は上手に隠されているもののキリエの相貌のように、非常に醜いものであると、示しているのかもしれません。

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