たぶん、多くの人(本を読まない人にも)に認知されている『そして誰もいなくなった』。そんな本作を恥ずかしながらまだ読んだことがなかったのです。ぴえー!すみません!というわけで読みました。以下あらすじ引用。
その孤島に招き寄せられたのは、たがいに面識もない、職業や年齢もさまざまな十人の男女だった。だが、招待主の姿は島にはなく、やがて夕食の席上、彼らの過去の犯罪を暴き立てる謎の声が響く……そして無気味な動揺の歌詞通りに、彼らが一人ずつ殺されてゆく!強烈なサスペンスに彩られた最高傑作。
冒頭引用。
ウォーグレイヴ判事は、一等喫煙者の隅の席で葉巻をくゆらせていた。少し前に公職を退いた判事の目は、《タイムズ》紙の政治記事を追っている。
判事は新聞をおいて、窓の外を眺めた。列車はイギリス南西部のサマーセット州を走っている。判事は時計を見た――あと二時間か。
ウォーグレイヴ判事はこれまでに読んだ兵隊島に関する記事を一つ一つ、思い浮かべてみた。
僕たち現代人はミステリーがかなり身近なものになってしまっていて(例えば本のミステリーだけじゃなく「ダンガンロンパ」のようなゲーム、そして「相棒」のようなテレビドラマなど。「フラグ立った!!!wwww」みたいな言い回しもミステリー発のような気がしないでもない)、『そして誰もいなくなった』のトリック自体は現在読んでも目新しさはない。しかし、待ってほしい。これは1939年に書かれた小説なのだ。現在のようにトリックが飽和状態であった時代なのではない。
そしてなにより題名通り「誰もいなくなる」という幕引き。犯人はだれだと心の片隅に置きながら読み、読者が探偵としても思考できるのがミステリーの読み方として一般的だろうが、その読者までも騙す結末はお見事。まあ、『そして誰もいなくなった』は有名過ぎて、肝のトリックだけ知ってるという人もいるのかもしれない。
そして何よりこの『そして誰もいなくなった』は日本ミステリー界においてかなり重要なポジションを占めている。
「新本格」と呼ばれるミステリー群がある。現在(2016年)ではまた新たな動きが生まれていて、ちょっと「新」がふさわしいかどうかは議論の余地がありそうだが、この「新本格」によって日本のミステリー界が息を吹き返したことは間違いない。その先駆けが綾辻行人の『十角館の殺人』である。実はこの『十角館の殺人』、『そして誰もいなくなった』を完全にオマージュしている。
クローズドサークル(外部と連絡が一切取れない状態)での殺人、見立て殺人、そしてネタ晴らしの方法まで『そして誰もいなくなった』を参考にしているのは一読すればわかる。もちろん『十角館の殺人』は『そして誰もいなくなった』の焼き増しではないことは、日本ミステリ―界の新たな時代を築いたことを鑑みれば、容易にわかるだろう。すなわち、『そして誰もいなくなった』が生まれなければ、『十角館の殺人』は生まれず、そして『十角館の殺人』が生まれなければ現在の日本ミステリーはなかったと考えると、『そして誰もいなくなった』のすごさが分かろうというものだろう。
そして、『そして誰もいなくなった』の影響を受けた作品は『十角館の殺人』だけではない。思いつくだけでも、はやみねかおるの『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノ-ト』、米澤穂信の『インシテミル』、辻村深月の『冷たい校舎の時は止まる』も、もしかしたら入るかもしれない。僕の偏った読書遍歴から見てもこれだけすぐに出てくるのだから、しっかり調べれば本当に無数に存在するだろう。それほど、偉大なミステリー作品なのだ!
ぶっちゃけ、文庫のはじめに収録されているアガサ・クリスティーの孫のマシュー・プリチャードの「『そして誰もいなくなった』によせて」と赤川次郎の「解説」によって、作品自体についてあまり書くことがない。そして、新たなことをいえるほど、読み込んでもいない。すみません。赤川次郎さんの愛にはとうてい及びません。
僕が『そして誰もいなくなった』をはじめて認識したのは『そして五人がいなくなる』の「あとがき」だったような気がする。『そして五人がいなくなる』は青い鳥文庫なので、小学生の時読んだ本。その時から認識していたのに、なぜ『そして誰もいなくなった』を読んでいなかったのか!!!廊下に立っとれ!!
ミステリーは謎が全て解き明かされるとき、読者に(そして多分探偵にも)カタルシスが訪れる。そのカタルシスの大きさを左右するのは、謎とそして舞台の精緻さだ。その点『そして誰もいなくなった』は今も色褪せない。よって、全人類が読むべき、ミステリーであると、ここに宣言したいと思います!よろしく!
以下、読書メーターに投稿した感想です。
言わずと知れた名作。何年たっても色褪せない緊張感のある描写はさすが。『十角館の殺人』を先に読んでいたためか、それの描写がちらつきました笑 多くの作品に影響を与えただけある、面白い王道ミステリー。間違いなくミステリー作品のカノンでしょう。
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