西尾維新作『美少年探偵団 きみだけに光かがやく暗黒星』感想

 講談社タイガ、創刊おめでとうございます!ツイッターで名を連ねる作家陣を見た瞬間にこの創刊日、10月20日が楽しみで仕方なくなった。

 個人的にハズレがないと思っているメフィスト賞受賞者の方々、このミス大賞受賞者からSF作家まで!最近めきめき活躍し始めている方を中心に据える布陣を見た瞬間、胸のときめきを抑えることができなかった。でも、この告知を見たのがまだ夏真っ盛りの8月で、創刊はまだまだ先だなあ、とか思ってたらいつの間にかそんな時期になっていたことに気が付き、ゾッとしたことは秘密。


 第一弾としてラインナップされているの1つ、西尾維新の『美少年探偵団 きみだけに光かがやく暗黒星』の感想をつらつらと。創刊第一弾として西尾維新を持ってくることは、当然と言ったところだろうか。『化物語』シリーズの『終物語』がアニメ化され、さらに掟上今日子さんがドラマ化といったタイミングだ。ガッキーかわいい。コスプレガッキーかわいい。


 あらすじ引用。


十年前に一度だけ見た星を探す少女――私立指輪学園中等部二年の瞳島眉美。彼女の探し物は、校内のトラブルを非公式非公開非営利に解決すると噂される謎の集団「美少年探偵団」が請け合うことに。個性が豊かすぎて、実はほとんどすべてのトラブルの元凶ではないかと囁かれる五人の「美少年」に囲まれた、賑やかで危険な日々が始まる。爽快青春ミステリー、ここに開幕!


書き出し。


 きみの意見には反対だが、しかしきみが意見を述べる権利は死んでも守る――フランスの思想家、ヴォルテールの言葉だが、さすがは歴史に名を残す巨人である、思えばこれほど非の打ちどころのない、意見の潰しかたも珍しい。
 はっきりと反対を表明した上で、意見を戦わせることは一切しない、議論のテーブルにつくつもりはまったくないと宣言するのだから、生かさず殺さずとはまさにこのこと。『怒ってないから』と言って謝らせてくれない、クラスの優等生を想起させる。
 わたしの意見も、そんな風に潰された。
 否、意見ではなく、あれは夢と言うべきか。
 だからこれは、わたし、瞳島眉美が夢を諦めるまでの物語だ。


 西尾維新の作品に初めて触れたのは高校生の時。〈戯言シリーズ〉が一番最初だった。キャラの濃い天才たちの騙しあい。巧みな言葉遊び。とっても衝撃的だったのを覚えている。『化物語』がアニメ化され、有名になり始めたころだったろうか。僕は〈物語シリーズ〉より〈戯言シリーズ〉のほうが好き。一番は『クビシメロマンチスト』かな。後半、段々とどんちゃん騒ぎよりになっていく〈戯言シリーズ〉の中では、一番陰気でじっとり湿っているけれど、一番の傑作だと思う。


 西尾維新は名前という固有名詞にその人物の特徴といったものを付属させている。前述の『クビシメロマンチスト』の登場人物、葵井巫女子も名前にトリックのヒントが隠れているし、掟上今日子さんの設定、その日限りしか記憶が残らない、というそれも、名前に表れているように思える(掟上→置手紙)。そう考えると、西尾維新(NISIOISIN)という名前にはどのような意味合いが込められているのだろうか。 回文でありながら維新を目指す、その意味は。


 それはさておき、本書にもそれは健在で、名前と特徴、特技がマッチしている。マッチしていないキャラもいるが、これから明らかになる特技によって、マッチしていくんじゃないだろうか。名前のインパクトもあり、一発でそのキャラクターと名前を一致させる筆致と名前はお見事。なかなか忘れられない。


 中でも、袋井満君はいいキャラしてる。ツッコむときにいちいち風刺を効かせてくるのだが、


「けっ。そんな当たり前のことを言うなんてお前にはがっかりだぜ、ナガヒロ。『なお、この決定には法的拘束力はない』って一文くらい、がっかりだぜ」


てな感じのが、袋井君はツッコミキャラであるため、豊富に出てくる。番長をはるレベルの不良であるにもかかわらず、料理を食べた人に吐かせるほど(?)うまく、さらに、知的な風刺を効かせてくるとは、恐るべし、袋井君。


 美しさを、少年であることを、すべての基準に行動する〈美少年探偵団〉。そんな姿は頼もしくもあり、うらやましくもあり。いろいろなしがらみにとらわれざるを得なくなった大人にはちょっと刺激が強いか。やりたいことをやる。やりたくないことはやらない。年を重ねるにつれ、やらなければならないことが増え、やりたい、やりたくないは二の次だ。だからそれは中学生の特権なのだ。


 将来の夢を星のように多く、そしてキラキラと公言していたあの頃に、戻りたい。

 

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