最果タヒ作『渦森今日子は宇宙に期待しない。』感想

 学生最後の更新は、最果タヒ『渦森今日子は宇宙に期待しない。』。青春ものでお届けします。以下あらすじと冒頭引用、いってみよー。


私は、私であること、諦めないでいたい。
渦森今日子、17歳。女子高生で、アイスが好きな、宇宙人。最後で「え?」となったかもだけど、私も、私の友達(岬ちゃん、柚子ちゃん)も、そんなことは気にせず、部活動、体育祭、夏合宿、と毎日を突っ走る。でも、なんだろう。楽しいのに、面白いのに、もやもやする。私が女子高生だから?それとも、宇宙人だから?この”痛み”に、答えはあるの――?ポップで可愛い、青春小説の新地平。


 簡単に言えばここは宇宙探偵部で、ついでにいうと私は宇宙人です。OK?宇宙人は妄想とかじゃなくて本当に宇宙からきた異星人なので、「え、まじで?」とか言われてもこっちだって困るの、あなただって、「え、きみ地球人なの?まじで?」とか急に言われても困るでしょ、はいとしか言えないでしょ。つまり私も、「宇宙人ですけど?」としか言えないし、だからこの話は終わり。とにかく納得してもらいたいわけです。


 まあ、渦森さんたちのように僕は女子でもないし、高校生でもない。まあでも「青春」という言葉が当てはまるギリギリの境界が終わる、ということで。社会人でも青春真っ只中!青春できる!みたいな主張は、気持ち悪いと僕は思うのです。


 そういたしまして。普通の冷めた女子高生みたいな宇宙人・渦森今日子を取り巻く宇宙人みたいな普通の女子高生(+2人の男子高校生)の青春を描く青春小説である本作。なんだかんだで本当の宇宙人が出てきちゃったりして、そして一緒に行動しちゃったりして、もう、バッタバタなコメディー。


 変人部長に恋する岬ちゃんに、俺が一番!下級生の律、そしてめっちゃいい子なその姉柚子ちゃん。それに宇宙人な渦森今日子。先にも書いたけど、渦森今日子より部長や岬ちゃんや律や柚子ちゃんの方がよっぽど宇宙人だ。自分にとって理解できない、という点において。


 そういう意味ではみんな宇宙人だろう。他人のことなんてわかりはしない。


 今日子は選択する覚悟を自覚的に持つことで道を切り開いていくが、周囲の人たちはそんなこと、無意識でやっているはずだ。部長に振り向いてもらうためにアメリカに行く岬ちゃん、渋谷に行きたいから東京に行く柚子ちゃん、自身が一番であることを疑わない律、超常現象を追いかけることに命をかける部長。ただ目の前のことに対処しているだけで。でもそれは無意識に覚悟しているってことなんだ。


 だから僕は、あの時期はみんな最強なんだと感じる。


 しょうもないことでドキドキして、嫌われたんじゃないかってビクビクして、毎日毎日。でもケロッと笑いあったりして。思い出すことは都合よく楽しかったものばかりで。お腹に力を入れてギッと奥歯を噛みしめていた時期もあったろうに。目の前に起こる事件に精一杯だったあの日。


 年齢を重ねるにつれて「なんとかなるさ」と呪文を唱えることが多くなった。しかもそれでなんとかなってしまうものだ。社会人を目前にしたこの時期に、多くの社会人の先輩から「まあ、なんとかなるさ」という言葉をかけられた。もちろん、その言葉はうれしいし、励みになる。でも、「なんとかなるさ」と考えることは、その問題から目を逸らしていることと同じじゃないか?覚悟を放棄していないか?


 「なんとかならないかもしれない」という(「あとがき」風に言うと)焦り。「なんとかなるさ」と考えることのできない余裕のなさ。結局なんとかならないまま大人になり、勝手に都合よくなんとかなったと考える我々は、しょーもない生き物なんだろう。


 あの必死さ、あんなに必死だったあの時期、それは「無敵どころか最弱だった」、でも必死で必死だったからこそ最強だったあの頃、大切にしたい。


 必死で必死で駆け抜けたその時期を時間を、大人は「青春」という。ぼくはもう「青春」と名付けその時期を懐古するほか術がない。お守りを握りしめるかのように思い出しながら、社会という大きな奔流の中に、身を投じようと思う。「なんとかなるさ」と唱えながらさ。


 僕もタヒさんの言う通り、あの時間が好きです。ずっと好き。

 出てくる女の子たちはみんなかわいい。だって女子高生だもの。ふふっと笑えてちょっと切なくなる、そして上で書いたようなことを思わせられてしまう、甘くてビターな、そんな青春小説でした。(ちょっと「あとがき」に引っ張られすぎてしまった、、、笑)

 


 最果さんの詩『空が分裂する』の感想はこちらからどうぞ。↓

 


 あ、これがちょうど50記事目になります。

 100記事目指してがんばりませう!

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