青春ミステリ。中高のころは大好物だった読み物。辻村深月さんとの出会いの本、『冷たい校舎の時は止まる』もそれの青春の部分が強調された作品だろうし、このミス大賞の山下貴光作『屋上ミサイル』なんかも好きだった。魅力的な登場人物!そして起こる非日常!それを華麗に、鈍くさく解決していくのだ。惹かれないわけがない。それが、大学に入学して何となく避けるようになってしまった。あまりに瑞々しくて。輝いていて(作者はおっさんおばさんだよ、とか、そこ。口を慎む)。直視できなくなってしまったのだろう。のだけれど、久しぶり(約4年ぶり)に手を伸ばしてみました。青春ミステリ。似鳥鶏作『理由あって冬に出る』です。以下、あらすじ引用。
芸術棟に、フルートを吹く幽霊が出るらしい――吹奏楽部は来る送別演奏会のために練習を行わなくてはならないのだが、幽霊の噂に怯えた部員が練習に来なくなってしまった。幽霊を否定する必要が迫られた部長に協力を求められ、葉山君は夜の芸術棟へと足を運ぶが、予想に反して幽霊は本当に現れた!にわか高校生探偵団が解明した幽霊騒ぎの真相とは?
そして、書き出し。
物語だとしたら、最初の一ページはどのシーンから始めるべきでしょうか。
普通に考えたら、それは明らかにあの契約のシーンです。つまり、消費者金融に関わったことです。ですが私には、もっとずっと前から、このシーンのための伏線が張られていたような気がしてならないのです。
ミステリを読むとき、僕は自分で謎解きしてやるっ!てな心持ちでは読まない(というか読めない)。次へ次へと繰る手の勢いに任せて読んでしまう。だから、注目するところは動機だろうか。現実の犯罪では動機など調べる方が無駄だし、無粋であるとかどっかの偉い人が言っていたような気がするが、そんなことを小説で感じても不毛なのである。
青春ミステリは動機がとても自分(中学生や高校生の)にとってとても卑近なものが多い。下らない(本人にとっては下らなくない)ことに一生懸命な姿を目の当たりにする。中高生の時って、もっとこだわりが強かったはずなんだ。だから感情移入もしやすいし、没入しやすかったのだろう。あんなに夢中になっていたのもわかる(遠い目)。今ではただただ懐かしい。羨ましい。自分も枯れてしまったものよ、、、
さて、『理由あって冬に出る』。作者の似鳥鶏さんは「にたどりけい」と読むらしい。初めて見た時はどう読むのか困惑したものである。あらすじを読んで頂ければわかる通り、わくわくするガジェットがたくさん。「芸術棟」「フルート吹く幽霊」「噂」「高校生探偵団」。おいおい、殺す気か(涙目)!そんな舞台の上を動き回る登場人物はやっぱり魅力的。カッコいいし、かわいい。高校生らしさを感じさせるイキイキさが文章からとっても伝わっていい感じ。読んでる途中、何回ニヤついたことか。特に柳瀬さんがお気に入りです。伊神君も捨てがたいが。
そんな感じでとてもさくっと読めるのだが、その文章からは作者の芸術に対する深い造詣が見え隠れする。音楽、演劇、文学、とくに美術ととても多彩で、直接トリックと関係あるものは少ないが、こういうものが作品に深みというか、魅力を付与しているんだと感じる。僕はそういうものに惹かれがちだ。
『理由あって冬に出る』。題名にもある通り、冬が舞台だ。だけれど、扱っている内容(解明するべき謎)は怪談、怪奇現象であり、むしろ夏の風物詩といえるものである。それをわざわざ冬に設定したのはなぜか。題名にまで据えたのはなぜか。そんなことを考えながら読んでみるとまた面白いかもしれない。
この世には科学では解明できないことがたぶんあるだろう。ありえないとか口で言いつつも、僕たちは根源的に恐怖しているものがあると思う。ミステリだからといって、そういったものを否定しない。むしろ綾辻行人さんの作品を読むとミステリとホラーって紙一重なんじゃないかと思う。そこら辺の塩梅がバランスよく、軽快な語り口で重い主題性を読者に感じさせない(感じさせないだけで、無いわけじゃない)良い小説でした。
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