31歳について、もしくは長嶋有「三十歳」感想 見ず知らずの女に中指を立てられた。車の運転がトラウマになりそうである。自身の境遇が恵まれていたこともあり、誰かからストレートに悪意を向けられることがほとんどなかったからだ。 向けられた瞬間は衝撃で車を運転しながらボーゼンとしており、その後怒りが湧いてきた。「ビッチ!」「クソアマ!」 しかし、口に出してみたそれらの侮蔑語はどこかふわふわしており、身体性を伴っておらずなんだか情けない感じでポトンと落っこちた。 自身の悪感情をそのまま発生源たる人物にぶつけたりはしない。結果、そのだれかに宛てるはずだった悪意は自分に向き、それを内部で消化することで溜飲を下げる。その消化の仕方は様々だが、「なんか、おれは、今、すげーおこっている...2024.07.23 08:46
映画「ルックバック」感想 拒絶する/憧れの「背中」見てきました。学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。以来、脇目も振らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に縮まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。 しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。 漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな...2024.07.15 12:24