空っぽの自分を埋めるために

 今日も近所のつまらない大型書店を訪れた。その大型書店は(一顧客の言としてはクソ生意気だが)全く売る気が見られない。こんな売り方をしているようじゃアマゾンに潰される日も近いんじゃなかろうか、と思いながら(その書店では)鈍ったアンテナを張り、本を物色する。今日はなんのためにここに来たんだっけな、とか頭の片隅にちらつきながら一冊、二冊と持って歩く本が増え、あ、聲の形のBlu-rayを買いに来たんだった、と思い出したころには購入予定の本は四冊になっていた。今日の気分は頭を使いたい、だったらしい。『ウィトゲンシュタイン入門』『近代 未完のプロジェクト』『物語を生きる 今は昔、昔は今』『竹取物語』。思わずにやける。僕の暮らしている部屋に戻れば、同じような気分のときに買った本たちがまだまだ眠っているのだ。『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『勉強の哲学 来たるべきバカのために』エトセトラ。極めつけは『アンチ・オイディプス』だろう。笑える。もちろん読んでない。でも、手に取った四冊をレジに持って行った。背が高く釣り目のショートカットの美人はいつの間にかレジからいなくなっていたけれど。ちなみに、聲の形のBlu-rayは置いていなかったので、アマゾンでポチった。


 ゲームセンターに置いてある音楽ゲームが僕は好きだ。プリクラが多く設置され華やかな一階エリアを、プリクラ筐体の幕の下に見える女性の生足を横目に、汗とたばことオタクの匂いが混じり合う二階エリアに向かう。ギャンギャンブゥンブゥンドッドッドッと自己主張の激しい筐体に向かい、スマホをセンサーに押し当てる。パスワードを打ち込み僕のデータを呼び出す。実はこのデータ、ウン十万の成果なのだ。けれど、一番ではない。でも、愚直に100円を入れ続ける。プレイが始まればその二分間はその事だけを考えればよい。あれ、さっき本屋にいた時は頭使いたいじゃなかったっけ、というもっともなツッコミでさえも入り込む余地はない。頭の悪そうな電子音でできた音楽に合わせ、所定の動作を行う。一曲演奏(?)を終え、集中していた自分を恥じ、また、今のちょっとうまいプレイを見ているギャラリーがいたかもという仄かな(気持ち悪い)期待を胸に、周囲を見渡したが、僕は一人だった。


 今日も今日とて空っぽの自分を埋めるために、本を買う、読む、ゲームをプレイする。そして、自分が空っぽなのをどうしようもなく自覚するのだ。そして日々は続いていく。そんなことを帰り道、生温い風が駆け抜ける夜道を歩きながら少し思った。

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