映画「心が叫びたがってるんだ。 Beautiful Word Beautiful World」感想

 映画二本目。「心が叫びたがってるんだ。」の感想になります。以下あらすじ。


幼い頃に活発だった少女、成瀬順は何気ない一言がきっかけで「王子の妖精」に言葉を発せない呪いをかけられてしまう。それ以降携帯メールのみで人とのコミュニケーションを取っていた順は、高校二年生のある日、「地域ふれあい交流会」の実行委員に任命された事をきっかけに「歌う」ことを決心するが…。


 映画「心が叫びたがってるんだ。」はノイタミナアニメ「あの日見た花の名前を僕はまだ知らない。」を手掛けた監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀のタッグが再び集結し、制作された映画。アニメ「とらドラ!」もこの三人によるものであるそうだ。


 「あの日見た花の名前を僕はまだ知らない。」は世間に多くの影響を与えた。アニメというアングラな文化が大衆にも受け、劇場版「あの日見た花の名前を僕はまだ知らない。」は興行収入10億円を突破するという偉業を達成した。アニメが一般大衆に浸透していく一つのきっかけになったことは間違いないと思う。


 かくいう僕は「あの日見た花の名前を僕はまだ知らない。」をリアルタイムで見ていて、号泣した口である。ちょうど受験期でそういう精神状態もあり、いまでも心に残っているアニメ作品のうちの一つだ。


 そんな「あの日見た花の名前を僕はまだ知らない。」の制作陣が結集して作られた映画だもの、見ないわけがない。むしろ、今年4月ごろから注目はしていた。昨日見ようと思ったのは思いつきだけれども。


と、ここで「心が叫びたがってるんだ。」のPVも紹介しておきましょう。

 言葉を封印された少女・成瀬順。本音を言わないエアーな少年・坂上拓実。恋に悩むチアリーダー部の優等生・仁藤菜月。やさぐれてしまった元野球部エース・田崎大樹。”地域ふれあい交流会”の実行委員に音楽教師である担任・城島一基に半ば無理矢理任命されてしまった4人は、いったいどこへ向かうのか。


 ちょっとした笑いの要素が、映画の中でキーポイントになる。脚本の岡田麿里の特徴の一つだと、どこかで耳にしたことがあるが、本当に無駄なところが一つもない。冒頭、山の上のお城に憧れる幼少時代の順が描かれ、よくある夢見る少女、といった造形でほほえましいけれども、実際の順の憧れていた「山の上のお城」は、なんと、ラブホテルである。そう、ラブホテルってお城の形してますよね?


 そんな純真な順を見せられると、思わず笑ってしまう(微笑ましさで)。しかし、ここである人物をたまたま見かけてしまうことで、「口から生まれたのね」と母親に言われるほどの順は、言葉を封印されてしまうことになるのだ。映画館がわが子を見る保護者のような和やかな笑いと目線で包まれていたのが、一気にスン、、、となったことは忘れられない。


 そこでもう僕たちは、「心が叫びたがってるんだ。」の物語の世界に没入している。あとは順に、拓実に、菜月に、大樹に、クラスメートの一人に。一喜一憂しながら、思う存分涙を流せばよいだろう。全貌はぜひ劇場で!家のテレビで見るのとは違う物語への没入があなたを待っている。


 普通の会話だと言葉にできない、言葉にしない感情を、音楽にのせることで容易に表現することができる。「心が叫びたがってるんだ。」ではミュージカルで、それを達成するわけだけど、ぼくもそんな経験はある。誰か相手に伝える、という方向ではなく、いいようもない感情をピアノを弾くことで表現し、自分の気持ちを整理した。そういった時の演奏は、普段の演奏と違って、感情が乗っていい演奏になると思う。クラシックなんかは、譜面どおりに演奏することが至上なんだけど、それでも、聞くたび違うように聞こえたり、演奏者によって全然違う演奏になったりすることは、その時の感情や、その人の人生が演奏に乗っているからだろう。


 叫びたがってる心を、音楽が代弁してくれる。音楽が後押ししてくれる。


 久しぶりに、ピアノを弾きたくなった。おしゃべりな心のせいで、痛い時に。拓実みたいにはできないけれど。


 ブルーレイとサウンドトラックを買おうと思う。一歩を踏み出した彼らに勇気づけてもうらうために。


 昨日見た「屍者の帝国」も「心が叫びたがってるんだ。」もたまたまだけれど、”言葉”がキーワードだ。「心が叫びたがってるんだ。」は副題にも示されているように(Beautiful Word Beautiful World)言わずもがな、「屍者の帝国」も”言葉”(”言語”)が重要である。「思考は言語に先行する」って言葉が主人公のワトソンから頻出し、言葉の発言をもって魂の在処を証明しようとする。また、ワトソンが魂の在処をあそこまで執着する理由は生前のフライデーとの約束、つまりフライデーの言葉である。


 言葉は人を傷つけ、人を救い、人を縛り付け、人を証明する。そして、そんな人々の物語を作る。


 言葉の魔力は、強大だ。


 そんなことを感じた、文化的な一日でした。

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