内出血で黒ずんだ腕と、突き指で紫色に変色した指を眺めている。
今年から男子バレーボール部の”顧問”を拝命した。新型コロナウイルスの蔓延で大会は軒並み中止、3年生は試合をすることなく引退、新入部員は1人だけ、体育館(の4分の1)には4人だけが残された。バレーボールは6人制であり当然バレーボールはできない。経験者は2人、未経験者は僕を含め3人、朝練をさせるほどのガチンコの顧問を持つ女子バレーボール部と男子バレーボール部の両方を教える外部コーチが1人。僕は当然ガチであるはずはなくそもそもガチであれば僕の腕と指が黒とか紫でコーティングされることもなかった。前任の常勤講師は講師であるがゆえに別の学校に異動し、しかし近所であるがゆえに別の学校にいることを忘れてしまうほどいろんなところで見かける。「あいつらには練習試合を組んで試合を経験させないと。人が足りないから練習試合には顧問が入ってやるとか。あと1人は相手の学校のベンチの選手を入れればいいよ」。
毎土曜日は基本的に部活動である。外部コーチの方が来て技術指導をする日。外部コーチは的確な技術指導を行い、僕もなるほど、と思う。新入部員の1年生はバレーボールの経験はなかったが、筋がいい。勘もいい。言われたことをすぐに修正できる。「言われたことをすぐに修正できる」ことは才能であることを僕は身に染みるほど承知している。一方、2年生の経験者のうちの1人は「言われたことができない」ゆえにヘタクソだ。ボールをアンダートスするときに足が縦に揃ってしまっていて力が入らず、ボールがあっちゃこっちゃの方へ飛んでいくし、アタックするときは準備が遅く打点が後ろすぎてボールが山なりになりアタックが脅威になりえない。足も軽快には動かず目の前に飛んできたボールしか取れないし、ボールのインかアウトのジャッジの際は動けないがゆえに祈りのような「アウト!」を告げる。そしてそのボールは大概が紛れもなくインである。経験者のもう1人は4人の中で抜群にうまく、未経験者の2年生は持ち合わせている身体能力で何とかしているが、フォームなどはぐちゃぐちゃである。しかし、「なんとかできる」ということも才能であることも僕は重々承知している。彼ら4人は外部コーチに冗談めかした(あくまで冗談めかした)「ヘタクソ」を毎週言われている。
中学生の時、テニスの上手かった部活の仲間を「マリオテニスGC」でボコボコにしたら「お前、ゲームは強いんだな」と言われたことのある僕は、相変わらず頭と体がつながっていない。いま、自分は体をどのように動かしているのか。さっき、自分は体をどのように動かしたのか。これから、自分は体をどのように動かしたいのか。わからないし、動かそうと思ってもそのようには動いていない。中学の時の外部コーチに「高校でも続ければ絶対に強くなる」と言われ口車に乗せられた僕は高校でもソフトテニス部に入部し、しっかり強くなることなく高校を卒業した。
視線が痛い。試合はもちろんのこと、練習の1つをとっても上手いやつらからの「テメーなにしてんだ、迷惑かけるんじゃねえ」という視線が。上手い彼らはもちろん大人だから直接そういう言葉を吐いたりすることは一切ないのだが、ヘタクソ側からすればそう思っているだろうことは手に取るようにわかるものだ。被害妄想だ、気にするな、というアドバイスが聞こえるが、「被害妄想は得てして事実である」という至言を胸に僕は生きている。
「自分のせいで」負けてきた。だから「自分のせいで」を乗り越える方法がわからない。練習でも「自分のせいで」は強く刷り込まれていく。例えば、30回連続でパスを回し続ける練習とか。連続でできなければ初めから。2チームに分けて、早くに終わらなかったチームは罰ゲームを設定されたらもう最悪だ。「自分のせいで」練習が滞り、さらにはチームメンバーに「罰」が与えられてしまうのだから。チームメンバーの上手いやつのしっかりしてくれという視線に耐えられず、「ごめん」や「すまん」が口をついて出るようになり、さっきできたことがどんどんできなくなっていく。はやくこの地獄のような時間が終わってくれないかな、と思う。
そんな自分がなぜか、いま部活動を見ている。そこには無数のかつての僕がいる。顧問や外部コーチに「ヘタクソ」と言われる、顧問や外部コーチが生徒に「ヘタクソ」と言える、くそったれな世界にそれでもしがみついて、毎日練習に参加する生徒がいる。
スポーツはきらいだ。
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