対談:ピエール・ルメートル+藤田宜永(@アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ) 感想

 先日、ピエール・ルメートル氏のゴングール賞受賞作品、『天国でまた会おう』の購入が条件の、ピエール・ルメートル氏のサイン会に参加してきた。『天国でまた会おう』の単行本(3200円!!)にサインをしてもらい、僕の名前を入れてもらい、少し会話を交わし、握手をしてもらってきた。その時に、ピエール・ルメートル氏の対談があることを知り、せっかくなので行ってきました。その感想を。


 ちなみに、その単行本はもったいなくて読めない(かった)ので、それは神棚にいい本立てを用いて飾るとして、文庫版を買ってきました。サイン入り単行本は永久保存版です(よだれ)。


 さて概要から。


2013年までに、ピエール・ルメートルは『死のドレスを花婿に』をはじめ『その女アレックス』などミステリー小説作品によって、多くの文学賞、国際的な成功、作品の高い評価と読者の大きな支持を獲得しました。2013年には『天国でまた会おう』を執筆、ルメートルを優れた小説作家であると知っていた全ての読者が待ち受けていた傑作小説を世に出し、同年のゴンクール賞を受賞しました。
アンスティチュ・フランセ東京では、ピエール・ルメートルを迎え、同じく多くの推理小説作品を執筆するほか、2001 年には『愛の領分』で直木賞を受賞した日本人作家、藤田宜永との対談イベントを開催いたします。


 司会は『天国でまた会おう』を訳した平岡敦氏。作家を目指したきっかけや、書く時に気を付けることなど、本という作品を書き手の側から見つめたときの作家同士の差についての質問がセレクトされていた。いつも読者という受け身(諸説あり)の側の人間であるので、とっても面白かった。


 小説家を目指したきっかけについて、ルメートル氏は15,6歳の時、新聞連載を読みふけっていたことがそもそもの始まりであると言っていた。なので、大衆小説がルーツであるらしい。作家としてデビューするときに、ミステリ―を選んだ理由も、遠因としてこのこともありそう。ちなみに処女作は『悲しみのイレーヌ』

 

 ルメートル氏のミステリーを書こうと思った直接のきっかけは「簡単そうだったから」。でも、すぐに書き始めてそう簡単ではないと思い知らされたらしい。どこが、という質問に対して、ミステリー(文学?)の拘束が想像していた以上に多い、それらをクリアしつつ書くことが難しかった、と言っていた。ルメートル氏はジャンルというものにかなりこだわりがあるようで、ミステリーならミステリーの手法があり、そのやり方に沿わなければ私は(ミステリ―の手法しか武器がないので)書けないと言っていた。現在、様々な界隈で、ジャンルという幅を超え新しいものを生み出そうとする動きが盛んなような気がするが、そんな中で、ミステリーというジャンルにこだわり続けるルメートル氏は、逆にかっこいい。ミステリーしか書けない自分には限界がある、と謙遜していたが。


 『天国でまた会おう』は(まだ読んでいないが)本国フランスでは「冒険小説」と称されているらしい。ネットで日本の評価を見ても、ミステリーやサスペンスのような毛色を感じているような読者は少なかった。しかし、ルメートル氏は『天国でまた会おう』もジャンルを変えた気は全くないらしい。ミステリーを書きたくて『天国でまた会おう』を書き始めたものの、ミステリーとしての柱が据わらず、それを無理矢理据わらそうとすると、書きたい主題そのものも変えなければならなかったらしい。そのため、主題を優先し書き上げたのが『天国でまた会おう』である。ルメートル氏は『天国でまた会おう』をミステリ―のツールを用いた歴史小説だ、と自称していた。


 『天国でまた会おう』の舞台、第一次世界大戦後の世界は、ルメートル氏に言わせると現代と状況が「響きあっている」ようだ。社会の要求することをこなしてきているのに貧しくなっているこの状況。両者には共通点がある。著者の問題意識を著者本人から聞けたのは大きい。そこのところにも注目しながら、これから読んでいきたいと思う。ルメートル氏はその状況にどのような解答や主張を交えているのか。


 時には書きたい主題を優先するルメートル氏だが、読者のニーズに応えることを第一に考えているそうで、ルメートル氏の人物造形が残酷である理由を尋ねられた時、「読者がそのようなものを求めているのだ。作者と読者、どちらが残酷だといえようか」と怖いことを言っていた。ひえー!


 また、時代性にも敏感であり、冗長なはじまりは嫌われるという自覚をしていた。子供のころは50ページは我慢できたけれど、今は序盤でつかまれなければ読むのをはじめてしまう、と。だからこそ、『天国でまた会おう』も次々と事件が起き、惹句に「ページを捲る手が止まらない!」と書かれるに至ったのだろう。


 藤田宜永さんとはなかなか対照的でとても楽しい対談だった。日本とフランスの出版事情の違いとか、まだまだ聞きたかったことはあったけれど、2時間はあっという間に過ぎ去った。東京にいると、こういうイベントが頻繁にやっていていいなあ!


 ちなみに、会場の「アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ」がおしゃれすぎてしかもちょうど結婚式をしていて、そわそわしてしまったのは秘密。よろしく!

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